会食の予定が近づくたびに緊張してしまい、食事が喉を通らなくなることはありませんか。
周囲の視線が気になって落ち着かず、
うまく食べられなかったらどうしよう
と不安が強まる方もいるでしょう。
こうした状態が続き、会食そのものが怖く感じられ、外食や人付き合いを避けたくなる状態を、会食恐怖症といいます。
これは、気合いや性格の問題ではなく、不安が大きくなった結果として起こる反応の一つです。
考え方や行動のパターンを整理し、段階的に慣れていくことで負担を軽くできるケースもあります。
この記事では、会食恐怖症のセルフチェックをはじめ、原因の考え方、症状を和らげる工夫、治療法までわかりやすく解説します。
辛さが続いている方は、まずは当てはまる項目があるか確認してみてください。
医療法人社団一秀会 理事長
葛飾橋病院 院長
尾内 隆志

よりよい医療を提供し、地域に信頼される病院を目指していきます
大口病院は、1954年に開設され、伊佐地区唯一の精神科医療機関として心の病を抱える方々の治療に従事してまいりました。
地域の皆さまにとってかかりつけの精神科病院となるべく、認知症、統合失調症、気分障害、発達障害など多様化した心の不調にあたるのに加え、近年は行政や関係機関と連携して地域の子どもから高齢者までのメンタルヘルス課題に対応するシステム作りにも取り組んでいます。
また、大口病院は、医療法人社団一秀会 葛飾橋病院が運営する医院の一つです。
葛飾橋病院は、開院以来、地域の皆様や多くの病院の方々にご協力をいただき、半世紀をこえる歴史を重ねてまいりました。
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私たちは地域の皆さまと共に優しく開かれた医療をめざし、地域に根ざした各種活動についても積極的に取り組んで参ります。
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- 臨床精神科医学一般
会食恐怖症の原因

会食恐怖症の辛さは、「自分が弱いから」と片づけられるものではありません。
不安が強まる背景には、考え方のクセや過去の経験、身体の反応の出やすさなど、いくつかの要素が重なっていることが多いです。
原因を整理できると、何が引き金になっているのかが見えてきて、対策も選びやすくなります。
会食恐怖症の背景には、次のような要素が関わっていることがあります。
- 人前での食事に対して、失敗したくない気持ちが強い
- 過去の会食で恥ずかしい思いをした経験がある(むせた・食べられなかった・指摘された など)
- 周囲の視線や評価を強く気にしやすい
- 緊張しやすく、体の反応(吐き気・喉のつかえなど)が出やすい

会食恐怖症は社交不安障害に分類される疾患です。
決して、その人の気持ちが弱いから症状が現れるというものではありません。
適切な治療を行うことで、症状を和らげることができるので、まずは受診して医師に相談してください。
会食恐怖症の特徴

会食恐怖症は、ただ「人と食事が苦手」というだけではなく、会食の場面で強い不安が湧き上がり、心や身体にさまざまな影響が出やすい状態です。
食べること自体よりも、周囲の視線や反応が気になってしまい、食事の時間が緊張の連続になる方もいます。
不安が強くなるほど会食を避けたくなり、避けるほど慣れる機会が減ってしまいます。
その結果、苦手意識が強まる悪循環に陥ることも少なくありません。
以下では、会食恐怖症の方に起こりやすい気持ちの変化や、つい取ってしまいやすい行動を整理します。
会食恐怖症の気持ちへの影響
会食恐怖症の辛さは、食事の場面そのものよりも、不安が頭の中で大きくなっていくことにあります。
「うまく食べられなかったらどうしよう」「変に思われたら困る」といった考えが離れず、会話や食事を楽しむ余裕がなくなってしまう方もいるでしょう。
会食の場では、周囲の表情や反応がいつも以上に気になり、少しの沈黙や相手の仕草を「自分のせいかもしれない」と受け止めてしまうこともあります。
そのため、会食の前後で気持ちが落ち込みやすくなったり、自分を責める気持ちが強くなったりする方も少なくありません。
さらに、不安を感じる場面が増えるほど、会食そのものが「怖いもの」に思えてきます。
本当は参加したい気持ちがあっても、緊張が勝ってしまい、予定を考えるだけで疲れてしまうこともあるでしょう。
会食恐怖症で出る身体への影響
会食恐怖症では、不安や緊張が強くなることで、気持ちだけでなく身体にも反応が出ることがあります。
本人は落ち着こうとしているのに、思うように身体が動かず、余計に不安が強まってしまう場面もあるでしょう。
会食の場面で起こりやすい身体の症状には、次のようなものが挙げられます。
- 吐き気や胃のむかつきが出る
- 喉がつかえる感じがして飲み込みにくくなる
- 食事が喉を通らず、食欲が落ちる
- 動悸がして胸が苦しくなる
- 息が浅くなり、呼吸がしづらく感じる
- 手汗や震えが出る
- 顔がほてったり、赤くなったりする
- お腹が痛くなる、下痢になりやすい
- 口が渇いて、うまく話せないと感じる
これらの症状は、身体が危険に備えようとする反応として起こるものです。
意志の弱さが原因ではありません。
会食恐怖症の人が取ってしまう行動
会食恐怖症の辛さが続くと、不安を減らそうとして、会食を避ける行動が増えてきます。
一時的には楽になるものの、会食に慣れる機会が減ることで、結果として苦手意識が強まってしまうのもよくある傾向です。
具体的には、次のような行動が見られることがあります。
- 飲み会や外食の誘いを断ることが増える
- 参加しても食べる量を極端に減らす、食事が喉を通らない
- なるべく目立たない席を選び、会話よりも緊張への対処に意識が向く
- 食べ方や飲み込み方を過剰に気にしてしまう
- 途中で席を外したくなり、トイレに行く回数が増える
- 会食の前から「どう乗り切るか」を考え続けてしまう
- 終わったあとに「あの場面は変だったかも」と振り返って落ち込む
このような行動も、意志の弱さが原因ではなく、不安から自分を守ろうとする自然な反応です。
ただし、辛さが長く続く場合は、無理に我慢せず、専門機関に相談することも大切です。
会食恐怖症のチェックリスト

会食恐怖症は、周囲からは気づかれにくく、本人だけが辛さを抱え込んでしまいやすい悩みです。
「自分が気にしすぎなのかもしれない」と思いながらも、会食のたびに不安が強くなる場合は、気持ちや行動の傾向を整理してみることが大切です。
会食恐怖症は、社交不安障害(社会不安障害/SAD)の一種として考えられることもあります。
ここでは、社交不安障害のチェック項目のうち、会食恐怖症に関わりやすい内容を中心にまとめました。
次の項目のうち、当てはまるものがあるか確認してみましょう。
- 人と一緒に食事をする場面が近づくと、強い不安や緊張を感じる
- 会食中に「うまく食べられないかもしれない」と考えてしまう
- 周囲の視線や反応が気になり、食事に集中できない
- 食べる量を減らしたり、食事を早く終わらせたりしてしまう
- 喉のつかえ、吐き気、動悸などの身体症状が出ることがある
- 会食を避けるために、外食や飲み会の誘いを断ることが増えている
- 会食中、席を外したくなったりトイレに行きたくなったりする
- 会食が終わったあとに「あの場面は変だったかも」と振り返って落ち込む
- 会食の予定が入ると、数日前から気が重くなる
- 本当は参加したい気持ちがあるのに、不安が勝ってしまう
当てはまる項目が多いほど、会食に対する不安が強くなっている可能性があります。
辛さを一人で抱え込まず、少しずつ対処法を知っていくことが大切です。
このチェックリストはあくまで目安であり、診断を確定するものではありません。辛さが続く場合は、早めに専門機関へ相談することも検討しましょう。
会食恐怖症の治療方法

会食恐怖症は、気合いや根性で乗り切ろうとしても、なかなか改善しにくいことがあります。
むしろ「またうまくいかなかったらどうしよう」と不安が強まり、会食を避けるほど苦手意識が深まってしまう方も少なくありません。
ただし、会食恐怖症は適切な治療や対策によって、少しずつ楽になることが期待できます。
ここでは、病院で受けられる治療と、自分でできる対策を整理して紹介します。
病院に行ってできる治療
会食恐怖症がつらいときは、心療内科や精神科で相談することで、症状に合った治療を受けられます。
「病院に行くほどではないかも」と迷う方もいるかもしれません。
ですが、早めに相談することで、不安が整理され、気持ちが少し楽になることもあります。
会食恐怖症では、認知行動療法や曝露療法などが代表的な治療として行われています。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、不安を強めている考え方や行動のパターンを整理し、少しずつ負担を減らしていく治療法です。
会食恐怖症では「失敗したら終わり」「変に思われたら取り返しがつかない」といった思い込みが、不安を大きくしていることがあります。
認知行動療法では、こうした考え方を無理に否定するのではなく、より現実的な捉え方に置き換える練習を行います。
たとえば「うまく食べられなかったら終わり」と決めつけず、「多少うまくいかない日があっても、それだけで評価が決まるわけではない」と捉え直していく考え方です。
また、曝露療法(エクスポージャー)と呼ばれる方法で、短時間の会食から始めるなど、できる範囲から少しずつ慣れていく取り組みを進めることもあります。
無理に我慢して乗り切るのではなく、現実的に続けられる段階を設定して進めることが大切です。

一度受診しただけですぐに治るということはありませんが、病院で診断を受けることによって、生活が楽になる方法が見つかるかもしれません。
治療法もある疾患なので、まだ大丈夫と我慢しないようにしましょう。
薬物療法
会食恐怖症の症状が強い場合は、不安を和らげる目的で薬が処方されることがあります。
薬は「会食恐怖症を完全に消すもの」ではなく、不安や身体症状を軽くして、取り組みやすい状態を作るために用いられます。
処方される薬は症状によって異なりますが、抗うつ薬(SSRI)や抗不安薬が多い傾向です。
ただし、体質や不安の強さによって適した薬は異なるため、医師が症状を確認したうえで処方内容を判断します。
薬に不安がある場合は、無理に決める必要はありません。気になる点は診察時に確認するとよいでしょう。
自分でできる対策
会食恐怖症は、治療だけでなく日常の工夫でも負担を軽くできることがあります。
いきなり「会食を楽しめるようになる」ことを目標にするのではなく、まずは不安を少しでも減らすことから始めるのがポイントです。
自分でできる対策としては、次のような方法があります。
- 不安が強くなる場面を振り返り、苦手な状況を書き出してみる
- 会食の前に深呼吸やストレッチなどで緊張を落ち着かせる
- 食べやすいメニューを選び、無理に量を増やそうとしない
- まずは短時間だけ同席するなど、少しずつ慣れていく
- 自分を安心させる「お守りの言葉」を決めておく(例:「少し食べられたら十分」)
- 信頼できる人に、体調や不安をあらかじめ伝えておく
つらいときは、頑張って克服しようとするほど苦しくなることもあります。
無理のない範囲で工夫を取り入れながら、必要に応じて専門機関の力を借りることも大切です。
会食恐怖症に用いる薬

会食恐怖症は、社交不安障害の一つとして扱われることがあります。
そのため治療では、社交不安障害に対して用いられる薬の中から、症状や困りごとに合うものが検討されます。
ここでは、会食恐怖症で使われることがある薬の種類と特徴を整理します。
まずは、目的や作用の違いを表で確認しましょう。
| SSRI | 抗不安薬 | β遮断薬 | |
|---|---|---|---|
| 使用目的 | 不安の土台を整え、会食への恐怖や予期不安を軽くする | 強い不安や緊張を一時的に和らげる | 動悸・震えなど緊張による身体症状を抑える |
| 作用メカニズム | 脳内のセロトニンの働きを調整し、不安を感じにくい状態に近づける | 脳の興奮を抑える方向に働き、不安を落ち着かせる | 交感神経の働き(心拍上昇など)を抑え、身体の反応を軽くする |
| 効果が出るまでの時間 | 効果を感じるまでに時間がかかる(目安:2〜4週間) | 比較的早く効く(頓服で使われる場合もある) | 即効性が期待できる |
| 副作用 | 吐き気、眠気、頭痛、胃腸の不調など | 眠気、ふらつき、集中力の低下など | 血圧低下、脈が遅くなる、冷えなど |
| 継続期間や薬の使用方法 | 継続して服用し、効果や副作用を見ながら用量を調整する | つらい場面で頓服として使う(必要時) | 会食など緊張場面の前に使う(頓用) |
| 市販薬の有無 | なし(医師の処方が必要) | なし(医師の処方が必要) | なし(医師の処方が必要) |
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
SSRIは、不安が強まりにくい状態を整える目的で使われる薬です。
会食恐怖症では、会食そのものよりも「またうまくいかなかったらどうしよう」といった予期不安(起こる前から不安になる気持ち)が強まり、外食や人付き合いを避けたくなる方も少なくありません。
SSRIは即効性の薬ではなく、数週間かけて少しずつ効果を感じるケースが多いとされています。
治療の初期は変化がわかりにくいこともありますが、焦らず医師と相談しながら服用を続けていくことが大切です。

心の病に使う薬には、怖い・習慣化してやめられなくなるという意識がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、専門の医師の処方のもと適切に使う分には、そのようなことはありません。
また、やめられなくなるということもないので心配しないでくださいね。
抗不安薬
抗不安薬は、不安や緊張が強いときに症状を落ち着かせる目的で処方されます。
会食恐怖症では、食事の場面で緊張が高まり、頭が真っ白になったり会話に集中できなくなったりすることもあるでしょう。
こうした「今この場の辛さ」を和らげる手段として使われる場合がありますが、眠気やふらつきが出ることもあるため注意が必要です。
服用のタイミングや頻度は、医師が症状に合わせて判断します。
β遮断薬(βブロッカー)
β遮断薬は、動悸や手の震え、汗が出るといった緊張時の身体症状を和らげる目的で使われる薬です。
会食恐怖症では「緊張していることが相手に伝わるのが怖い」「動悸が出たらどうしよう」と不安がふくらみ、症状が悪化することもあります。
身体の反応が落ち着くことで不安の悪循環がやわらぎ、会食のハードルが下がる場合もあるでしょう。
ただし、血圧や脈拍に影響する薬のため、持病がある方は受診時に必ず医師へ伝えてください。
会食恐怖症に関するよくある質問

会食恐怖症について調べていると、「どのくらいの人が悩んでいるの?」「自力で治せる?」「市販薬はある?」など、細かい疑問が次々に出てくるものです。
ここでは、会食恐怖症に関してよくある質問をまとめ、受診の目安や対処の考え方をわかりやすく解説します。
会食恐怖症の有病率は何人に一人ですか?
ただし、会食恐怖症は社交不安障害の一つとして捉えられることもあり、人前での食事や会話に強い不安を感じる方は珍しくありません。
「自分だけかもしれない」と思い込まず、辛さが続く場合は早めに相談してみましょう。
会食恐怖症は自力で治すことができますか?
一方で、強い不安が続いて会食を避ける状態が長引くと、苦手意識が強まりやすくなります。
無理に一人で抱え込まず、必要に応じて心療内科や精神科で相談することも検討しましょう。
会食恐怖症の人はどんな特徴がありますか?
・人前で失敗したくない気持ちが強い
・周囲の視線や評価が気になりやすい
・食事中の仕草や飲み込み方を意識しすぎてしまう
・緊張すると吐き気・動悸・喉のつかえなど身体の反応が出やすい
・終わったあとも「変に思われなかったか」と振り返って落ち込みやすい
ただし、これらは性格の弱さではなく、不安が強まった結果として起こる反応です。
無理に頑張って乗り切ろうとせず、自分を責めないことが大切です。
会食恐怖症に効く市販薬はありますか?
ただし、吐き気や胃の不快感などの症状を一時的に和らげる目的で、市販薬が使われることはあります。
たとえば、胃のむかつきや胃痛には胃薬(制酸薬・胃粘膜保護薬など)、吐き気があるときには制吐剤、緊張でお腹が痛くなりやすい場合は整腸薬が検討されることもあります。
どれが合うか迷う場合は、薬剤師に相談して選ぶとよいでしょう。
会食恐怖症は社交不安障害の一つとして扱われることもあり、治療が必要な場合は医師の判断で薬が処方されます。
不安や緊張が強く、日常生活に支障が出ている場合は、無理をせず専門機関を頼ることも大切です。
会食恐怖症でも食べやすいものはありますか?
まずは、次のようなものから試してみるとよいでしょう。
・一口量を調整しやすいもの(うどん・雑炊・スープなど)
・喉を通りやすいもの(豆腐・茶碗蒸し・ヨーグルトなど)
・噛む回数が少なく済むもの(柔らかい肉・煮物など)
・香りや刺激が強すぎないもの
反対に、口の中が乾きやすいものや飲み込みにくいものは、負担になりやすい傾向があります。
無理に量を食べようとせず、「少し食べられたら十分」と考えてみましょう。


