気づくと、指の皮をむいている。血が出て、やっと手が止まる。

やめようと何度も思っているのに、どうしてもやめられない。
そして、むしった跡を人に見られないように隠す。この繰り返しが何年も続いている人がいます。
やめようとしてやめられず、傷が残り、そのことで困っている。ここまで来ているなら、癖で済ませなくてよい状態です。
そして、意志が弱いからではありません。皮膚むしり症には、やめられなくなる仕組みがあります。
ここから見ていくのは、次の6つです。
- 皮膚むしり症とは、どういう状態なのか。癖とどう違うのか
- なぜ、やめられないのか
- むいた皮やかさぶたを口に入れてしまうこと
- にきびやアトピーがあるときは、どう考えるか
- 自力でできることと、自力では難しいこと
- 自力では難しいときの治療と、似た行動との関係


医療法人社団一秀会 理事長
葛飾橋病院 院長
尾内 隆志
よりよい医療を提供し、地域に信頼される病院を目指していきます。
大口病院は、1954年に開設され、伊佐地区唯一の精神科医療機関として心の病を抱える方々の治療に従事してまいりました。
地域の皆さまにとってかかりつけの精神科病院となるべく、認知症、統合失調症、気分障害、発達障害など多様化した心の不調にあたるのに加え、近年は行政や関係機関と連携して地域の子どもから高齢者までのメンタルヘルス課題に対応するシステム作りにも取り組んでいます。
大口病院は、医療法人社団一秀会 葛飾橋病院が運営する医院の一つです。
葛飾橋病院は、地域の皆様や多くの病院の方々にご協力をいただき、半世紀をこえる歴史を重ねている医院です。
その間に社会環境、生活スタイルの変化など世の中も大きく変わり、それにともない精神医療分野も大きく変化し、今や患者様やご家族のご希望も変化・バリエーションが増えております。
これからも地域の皆さまと共に優しく開かれた医療をめざしていきます。
資格
- 精神保健指定医
- 認定精神科医
- 日本精神神経学会専門医
- 日本医師会認定産業医
- 日本医師会会員
- 日本精神科病院協会 会員
- 東京精神科病院協会 会員
- 東京都病院協会 会員
- ル・ソラリオン葛飾非常勤(嘱託)医師
専門分野
- 臨床精神科医学一般
皮膚むしり症とは、どういう状態か


繰り返し自分の皮膚をむしったり、ひっかいたりして、皮膚が傷つく状態です。
診断のときにまず目安になるのは、次の3つです。
- 傷ができるほど皮膚をむしっている
- むしる行為を減らしたりやめたりしようとして、できていない
- そのために強い苦痛を感じているか、日常生活に支障が出ている
このほかに、ほかの皮膚の病気や薬の影響によるものではないかも確認します。
病気かどうかを決めるのは医師です。ただ、相談するだけなら、3つ全部がそろっていなくても構いません。
ある時点で調べると、約2〜3%の人にこの状態があるとされています(MSDマニュアル家庭版より)。おおよそ30〜50人に1人です。そのうち約60〜75%は女性で、青年期に始まることが多くみられますが、どの年齢でも起こります。
癖との違いは、どこにあるか
むしる場所や方法は人それぞれです。
むしる対象として挙げられているのは、かさぶた、吹き出物、たこ、そして健康な皮膚です。
ささくれやかさぶたのような「取りたくなる所」だけでなく、ふつうの皮膚をむしる人もいます。見た目を整えるためだけではなく、手が伸びてしまうのが特徴です。
むしる方法や部位は人によって様々で、時間がたつにつれて変わることもあります。
ほとんどの人は人前ではむしらず、ひとりのときに起こります。傷は衣服や化粧で隠されます。そのため、周りからは気づかれないまま年単位で続くことがあります。
症状の強さには波があり、ひどくなる時期と落ち着く時期を繰り返しながら長く続くこともあります。
皮膚むしり症は、2013年に出たアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)から、正式な病名として扱われています。分類されたのは「強迫症および関連症群」というグループです。
強迫症とは別の病気ですが、「やめたいのに繰り返してしまう」という点が似ているため、同じグループに入っています。
いまの状態を整理してみる
診断ではなく、受診のときに伝える材料づくりのためのチェックです。
✓皮膚むしり症のセルフチェック
これは診断ではありません。点数をつけるものでもありません。どの項目に当てはまったかで、受診のときに伝える材料を整理するためのチェックです。当てはまるものを選ぶと、下に結果が出ます。選んだ内容がどこかに送信されることはありません。
選んだ項目:0/15
※この結果は診断ではありません。診断できるのは医師だけです。傷に感染が疑われるときは、まず皮膚科を受診してください。



恥ずかしくて誰にも言えない、と感じる方がいます。ですが、これは意志の問題ではなく、対処の方法がある状態です。
なぜ、やめられないのか


むしる前と後で、気持ちが変わるからです。
むしる直前には、緊張感や不安を抱いています。そして、むしることでその感情が和らぐことがあります。多くの場合、満足感も得られます。
この「高まる → 行動する → 和らぐ」というつながりが、行動を続けさせます。
むしり方には、大きく2つのパターンがあります。
- 気づいたらやっている。考えごとをしているときなど、それについて考えることなく手が動いている。むしる場所を探したり、道具を使ったりする手順がつくこともある
- 意識してやっている。むしると決めて、場所を選んで行う
同じ人の中で、両方が起きることもあります。気づかないうちにやっている人は、前に緊張を感じた記憶がないかもしれません。それでも当てはまらないわけではありません。
なお、なぜその人に起こるのかは、はっきり分かっていません。きっかけも一つではなく、不安や気だるさなど、いろいろな気持ちの状態が行動の前に来たり、一緒に起きたりすることが知られています。
「ストレスをなくせば止まる」と考えると、うまくいかなかったときに自分を責めることになります。
むしったあとには、困惑や恥ずかしさを感じることがあります。自分で止められないことに苦痛を覚え、何度もやめようとしてもできない。この状態が続きます。
責めてしまうのは自然なことです。ただ、頑張りが足りないのではなく、頑張る方向が合っていないだけです。
むいた皮やかさぶたを口に入れてしまうこと


あなただけに起きていることではありません。
剥がしたかさぶたをかんだり、飲み込んだりすることがあるのは、医学の資料にも書かれていることです。むしって、口に入れるところまでが一連の手順になっている、という形です。
ここを人に言えずにいる方もいます。言いにくいと感じること自体は、おかしなことではありません。
体への影響については、分かっていることと分かっていないことがあります。
毛を抜く病気である抜毛症では、飲み込んだ毛が胃や消化管でかたまりになることが知られています。
そうなると、食事の途中ですぐ満腹になる、吐き気、嘔吐、痛みといった症状が出ます。
むいた皮で同じことが起きるという報告は見当たりません。ただし、腹痛や吐き気が続くときは内科に相談してください。
話しにくければ、後からでも構いません。伝えてもらえると、診察で行動の全体が分かりやすくなります。
にきびやアトピーがあるときは、どう考えるか


皮膚の病気が原因でむしっている場合は、皮膚むしり症には含めません。
にきびがあって、それが気になってつぶしてしまう人は大勢います。これ自体は皮膚むしり症ではありません。
では、どこで線を引くのか。診断基準(DSM-5)では、むしる行動が皮膚の病気からどれくらい独立しているかを評価する、とされています。日本の学会誌もこれを紹介しています。
実際には、「むしり行為を伴うにきび」と「皮膚むしり症を併存するにきび」を区別する、という形で考えられています。にきびと皮膚むしり症が両方あることもある、ということです。その場合は、にきびの治療と、むしる行動への対処を、それぞれ進めます。
受診のときに伝える材料として、次のような点が整理できます。
| 見るところ | 癖に近い | 相談する理由になる |
|---|---|---|
| きっかけ | にきびがあるときだけ | にきびがない場所もむしる |
| やめやすさ | にきびが治れば止まる | 治っても別の場所を探す |
| 気持ち | 特に何も感じない | 前に緊張、後に後悔がある |
| 影響 | 跡が残らない | 傷あとが残る、隠している |
※この表は編集部による整理で、診断基準ではありません。
かゆみのある病気(アトピー性皮膚炎など)でも、同じように線引きが難しくなります。かゆくて掻いているのか、かゆみとは別に手が伸びているのか。ここは本人にも区別がつきにくいところです。
自己判断はせず、皮膚の治療と並行して相談して構いません。
なお、むしる行動が一部の薬や薬物の影響による場合や、疥癬(ダニによる皮膚の病気)のような別の病気による場合も、皮膚むしり症とは別に考えます。
自力でできること


できることはあります。ただし、できることだけでは届かない部分もあります。
①いつ手が伸びるかを記録する
まず、気づけるようにします。気づいたあとで構いません。思い出せる範囲で、いつ・どこで・どんな気持ちだったかを書きます。
いつ・どこで・どんな気持ちのときだったかをメモしていくと、自分のパターンが見えてくることがあります。見えてこなくても、記録そのものが受診のときの材料になります。
②手を使う別の行動に置き換える
行動を止めるのではなく、別の行動に入れ替える考え方があります。治療で使われる方法の中心にある発想です。
治療では、①自分の行為に対する自覚を高める、②行動の引き金になる状況を見つける、③別の行為に置き換える、の3つがセットで教えられます。
置き換える行為としては、こぶしを握る、手を体の下に敷いて座る、編み物をするといった例が挙げられています。手がふさがっていれば、むしる動作に入れません。
- 気づくのが遅れても構いません。気づいた時点で、手を握るなど別の動きに切り替えます
- 気づくまでの時間は、少しずつ短くなっていきます。最初からうまくいかなくて当然です
- 自分に合うものを選ぶ。その場でできて、人目を気にしなくていいものがよいです
③手が届きにくい状況をつくる
記録で分かった場面に合わせて、手が伸びにくくする工夫もできます。
むしりやすい指にばんそうこうを貼っておく。テレビを見るときは手袋をはめる。手が空く時間に、手を使う別の作業を入れておく。
ただし、物に頼るだけでは続きません。①の気づくことと、②の置き換えとセットにしてください。
※この③は、治療法として確立したものではなく、生活の中での工夫です。
④傷の手当てを続ける
むしった傷は、洗って清潔にし、乾かないように覆っておきます。
むしる行為が過度になると、傷あとが残るほか、出血が多くなったり、血流の重い感染(敗血症)に至ったりすることがあります。
傷が赤く腫れている、膿が出ている、熱がある。このときは皮膚科か内科を受診してください。傷の手当ては、行動への対処を待たずに始められます。
ここに挙げたことを試しても変わらないとき、傷が残るときは、試し続けてから、ではなく、その時点で相談して構いません。
自力では難しいときの治療


中心になるのは、行動に働きかける心理療法です。
認知行動療法(考え方や行動のパターンを整理して変えていく心理療法)の中でも、習慣逆転法という方法が、MSDマニュアルでは第一に選ばれる治療とされています。自力でやろうとした「気づく」「置き換える」を、専門家と一緒に組み立てていく形です。
| 方法 | 何をするか |
|---|---|
| 習慣逆転法 | 行為への自覚を高め、引き金になる状況を見つけ、別の行動に置き換える |
| 薬 | むしる行動そのものに使うものと、併存する不安や落ち込みに使うものがある |
薬については、むしる行動を軽くする可能性を示すエビデンスは限られているとされています。どの薬を使うかは医師の判断になるので、薬だけで解決するという期待は持たないほうがよいです。
日本では、行動そのものの相談先は精神科・心療内科になります。初診では、いつから続いているか、どの部分をむしっているか、生活でどう困っているかを聞かれます。どの治療を行っているかは医療機関によって違うので、予約のときに確認してください。
皮膚の症状を伴うこうした反復行動は、精神科を受診する例が少なく、皮膚科にかかる人が多いことが指摘されています。相談してよい状態です。
抜毛症や爪かみとの関係


同じ仲間として分類されています。
毛を抜く(抜毛症)、皮膚をむしる(皮膚むしり症)、爪や頬の内側をかむ。これらは「身体集中反復行動」とまとめて呼ばれ、いずれも強迫症および関連症群に入ります。
自分の外見の欠点が気になってしまう状態(醜形恐怖症)も、同じグループです。皮膚の見た目へのこだわりが強いときは、こちらの記事も参考にしてください。
関連記事:醜形恐怖症のセルフチェック|症状と「気にしすぎ」の違い
皮膚むしり症の人の多くは、ほかの反復行動もあわせて行っています。形は違っても同じ仕組みで動いているので、対処の考え方も近くなります。
こうした行動は、思っているより多くの人にあります。海外の大学生を調べた研究では、毛を抜く・皮膚をむしる・爪をかむといった行動が何らかの形である人が1〜2割にのぼりました。病気の基準を満たす人は、この中の一部です。
一人だけが抱えている問題ではない、ということです。
よくある質問


まとめ


皮膚むしり症は、やめようとしてやめられず、傷が残り、そのことで困っている状態です。意志の弱さではありません。
むしる前に緊張が高まり、むしると和らぐ。この流れが行動を続けさせます。だから、気づくことと、別の行動に置き換えることが対処の中心になります。
むいた皮を口に入れる行動も、あなただけのことではありません。診察では伏せずに伝えてください。
- 傷が残る、隠している、やめられない。どれかがあれば相談してよい
- 傷の手当ては、行動への対処を待たずに始める
- 気づくのが遅れても、そこからやり直せる
大口病院でも、こころの不調についてのご相談をお受けしています。
この記事は、公表されている資料をもとに一般的な内容を整理したものです。個別の診断や治療の方針に代わるものではありません。
参考資料
- MSDマニュアル家庭版「皮膚むしり症」(Katharine Anne Phillips, Dan J. Stein) https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-心の健康問題/強迫神経症および関連障害/皮膚むしり症
- MSDマニュアル家庭版「抜毛症(抜毛癖)」(Katharine Anne Phillips, Dan J. Stein) https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-心の健康問題/強迫神経症および関連障害/抜毛症-抜毛癖
- 境玲子・飯田美紀「皮膚・毛髪への”身体集中反復行動”─抜毛症,皮膚むしり症,皮膚の掻破行動─」児童青年精神医学とその近接領域 57(2):298-309, 2016 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/2/57_298/_article/-char/ja/









